セレブに反応する脳細胞

前回の続き


しかし、
英国レスター大学のキアン=キローガ(Rodrigo Quian Quiroga)らの
  最近の研究で新事実が浮上した。


彼らは個々のニューロンがさまざまな刺激に対して
  どれほど選択的に反応するかを調べようと、
    てんかん手術を受ける8人の患者に注目した。


発作を引き起こす脳の部分を特定するための処置として、
患者の脳にはそれぞれ64本の小さな電極が埋め込まれている。
 電極の多くは、
長期記憶の保存に重要な役割を
 果たしている海馬という領域に取り付けてあった。
 各患者に有名人や動物、物、著明な建物をたくさん見せ、
 電極で脳細胞の発火を検出。
少なくとも1個のニューロンに強い反応を引き起こした
                      画像を絞り込み、
次はその選ばれた画像について3〜8種類の別のカットを見せて
                      反応を調べた。


 ある患者では、
1個のニューロンが女優ジェニファー・アニストン
                   写真7種類に反応した。
ほかに動物や建物、有名無名の人物など80枚の写真を
            見せたのだが、これらには反応しない。


 「初めてこの現象を見たとき、
          椅子から転げ落ちそうになった」と
               キアン=キローガは回想する。


別の患者では、
 女優ハル・ベリーに特別に反応する神経細胞が見つかった。
 このニューロンは写真だけでなく、
     似顔絵やベリーの名を文字で書いたものにも反応した。
さらに、
 ベリーがマスクをつけたキャットウーマンの姿をしていても、
 それがベリーだと患者が分かる場合には、
                同じ神経細胞が発火した。


  つまり
   「このニューロンハル・ベリーという抽象的な
      概念に反応しているのであって、
        特定の画像に反応しているのではない」と
               キアン=キローガは説明する。


 これは
 「詳しい内容までは思い出せないが、
          何について話したのかは覚えている」
 という状況と似ていて、
  私たちが記憶を抽象的な概念として蓄えていることを
                     示しているという。
       シドニーのオペラハウスやピサの斜塔など、
        有名な建物に反応するニューロンも見つかった。


月刊誌「日経サイエンス」から