個体群の規模が淘汰に影響

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メリーランド大学
進化生物学者フリーランド(Stephen J. Freeland)によると、
SAR11の例は
「ゲノムをより速く効率的に複製する必要のある極めて大きな個体群では、
                  ゲノムそのものが小型化する」
                  という仮説を支持しているという。
  「適応度のわずかな差に基づいて自然淘汰が進んでいくが、
       この作用は個体群のサイズから大きな影響を受ける」。


小規模な個体群の場合なら、
  ランダムな遺伝子的変化が遺伝子の運命を決めるだろう。
  これに対し海洋には非常に多数のバクテリアが生息しているので、
  自然淘汰の手がかりとなるのは適応度のごく些末な違いだ。
 基本的には、
   広大で安定した環境中に非常に多くの微生物がいるわけで、
   環境変化に対応できるように進化する圧力はあまりかからなかった。
  つまり、
   非対応なDNA配列を高度に対応した遺伝子とともに
                 温存しておく必然性がなかった。

 こうしてSAR11は10億年の進化の過程で、
                ゲノムを小さくすることによって、
 適応上の価値がないDNAを複製するという負荷を減らすよう、
                   淘汰されてきたと考えられる。


  「適者生存が自然淘汰だが、何が最適かは、
             その生物が生息する環境によって異なる」
                     とフリーランドはいう。


      SAR11はその一例にすぎない。



月刊誌「日経サイエンス」から