腸内細菌で変わる薬の効き目

      腸内細菌が、薬物の代謝そのものを変えているらしい
                             全容解明が急がれる


       2004年、製薬大手ファイザーの科学学者が
               実験用のラットについて奇妙なことに気付いた。
 尿中に排出される「馬尿酸」という代謝物の量が極端に少ない。
    代謝異常だとすると実験結果に影響しかねないので、追跡調査が行われた。
 そのラット達は別のラットと一緒にノースカロライナ州の施設で育てられたもので、
   代謝物の量も同じになるはずだが、面白いことに問題のラットは
       他のマウスとは別の1つの部屋で飼育されていた。


 さらに詳しく調べたところ、予想外の原因が浮かび上がった。
   ラットの腸内にすむ微生物が独特の構成をしており、
       これが代謝を変化させていたのだ。


 「実に驚いた」とファイザーの主席研究員ロボスキー(Lora C. Robosky)はいう。
   ロボスキーは体液中の代謝物を分光器とパターン認識ソフトウエアで解析して
      新薬候補物質を絞り込む研究に携わっていた。
         生物の代謝を総括的に調べる「メタボノミクス」というアプローチだ。


 この研究の中で、
    薬物に対する反応に個人差が生じる理由として、
    それまで見落とされがちだった要因が明らかになった。
                 腸内微生物叢(ミクロフローラ)の影響だ。


 腸内微生物が人間の健康に一役買っていることは、かねて予想されていた。
   しかし、腸内微生物は母親から乳児へと母乳や接触などを介して受け継がれ、
     それぞれの腸内環境に適応しているため、外に出して調べるのは容易でない。


「何しろ、ヒトの腸内微生物叢を調べ上げた初の論文が公表されたのは本の数ヶ月前だ」と、
 セントルイスにあるワシントン大学ゲノム科学センターの
                 所長ゴードン(Jeffey I. Gordon)はいう。



月刊誌「日経サイエンス」から