環境要因が代謝を決める


前回の続き


  ファイザーの研究者たちは
異常なラットの薬物代謝能力については調べなかったが、
  同様の動物を使って実験しても矛盾する結果が出ることが
                      あるのは何故か、
  今回の発見で部分的に説明がつくだろうとロボスキーはいう。そして、腸内微生物が薬物代謝に影響を与えているという事実が                       明らかになった。
  ただ、度の程度の影響なのかはまだわかっていない。


  メタボノミクス研究をリードする
      ロンドン大学インベリアルカレッジのニコルソンは、
体の薬物応答に関して微生物がかなりの影響を
                    与えていると断言する。
 「代謝には環境要因が大きく影響している。
      ストレスの度合いや腸内微生物の種類などが
          非常に重要なことがわかってきた」。


例えば肝臓で働く解毒酵素のスイッチを入れる化合物を作りだす
                 微生物種はたくさんあるし、
 いくつかの微生物の代謝物はヒトの代謝経路に必要不可欠な
                       働きをしている。

鎮痛・抗炎症剤のビオックスが一部の人々に心血管障害を
                引き起こして問題になったが、
 こうした副作用は微生物叢の影響かもしれないとニコルソンはみる。
薬物応答の個人差を調べる研究は患者の遺伝子に注目したものが
ほとんどだが、
 本当は遺伝子と環境の相互作用のほうが重要だろうと指摘する。


 研究をさらに進めるべく、
ニコルソンは
ファイザーブリストル・マイヤーズ・スクイブなど
                       数社と共同で、
  代謝パターンを同定するメタボノミクス技術を開発している。
  投与した薬物が代謝される生科学的経路を予測すると同時に、
  その化合物の毒性を判定するのが1つの目的だ。
 さらに、もっと大きな夢もある。
 たんぱく質に注目する「プロテオミクス」や遺伝子転写物を
 調べ上げる「トランスクリプトミクス」などの
   研究から得られたデータを統計的に統合して、
        薬物生理作用の全体像を明らかにしたいという。



月刊誌「日経サイエンス」から