ひとりで歩く分子
人間が歩くのと似た要領で、
平面状を自らまっすぐ移動する分子が初めて作り出された。
この分子は9,10‐ジチオアントラセン(DTA)といい、
コールタールの誘導体に1対の硫黄有機化合物が結びついている。
銅の板の上に置いて熱を加えると、
硫黄有機化合物の部分が交互に動き、
一度に片方だけが表面から離れて持ち上がった。
小さな単身を使って分子を押したり引いたりしても、
基板表面にくっついた“足”のおかげで、
分子がよろけたりコースから外れたりすることはなかった。
補助のレールや溝がなくても一度もバランスを失わず、
およそ1万歩を“歩んで”みせた。
実験にあたったカリフォルニア大学リバーサイド校の研究者たちは、
今回のDTAや同種の分子を使えば“ナノのそろばん”を設計でき、
いわゆる分子コンピューターの実現につながると考えている。
詳細はPhysical Review Letters誌2005年10月14日号に。
月刊誌「日経サイエンス」から