傷ついた部分に集中

前回の続き


   ドーらが
全身に緑色蛍光タンパク質ができるよう遺伝子操作したオスのマウスを
通常のメスと交配させたところ、
   母親の脳の中に、緑色蛍光を示す胎児の細胞が発見された。
 「いくつかの脳領域では、脳細胞100個あたりの胎児由来の細胞が1個、
         ときには10個に達した例もある」とシャオはいう。


 これらの胎児細胞は、
ニューロンやアストロサイト(ニューロンに栄養を供給する細胞)、
オリゴデンドロサイト(ニュ―ロンの電気信号が漏れないように守っている細胞)、
マクロファージ(細菌や傷ついた細胞を食べる細胞)
                      に似た細胞に変化した。


 さらに、
 マウスの脳を化学薬品で傷つけたところ、
      損傷部位には他に比べて約6倍の数の胎児細胞が集まった。
 脳がSOS信号として放出した分子に反応して集まったと考えられる。


脳と血液系は「血液脳関門」という障壁で隔てられているが、
        胎児細胞がどうやってこれを通り抜けるのかは不明だ。
 脳の毛細血管壁の細胞は蜜に詰まっており、
           たいていの化合物はこの壁を通り抜けられない。
 胎児細胞が血管壁をすり抜けられるのは、
  細胞表面についているたんぱく質や糖などの生体分子が
   血液脳関門と相互作用するからではないかとドーらは考えている。


    血液関門そのものは
     妊娠中のメスもその他のマウスも大きな違いはないので、
      胎児細胞はオスや妊娠していないメスの脳にも
                     入り込めるはずだという。


月刊誌「日経サイエンス」から