なぜヒトだけ無毛になったのか

哺乳類を「けもの」ともいうが、これは「毛のもの」の意味。
身体が毛で覆われているのは哺乳類の特徴といってもいい。


ただし例外がある。スベスベした滑らかな皮膚を持つ動物、つまり私たちヒトだ。
「イルカやクジラも毛がないではないか?ゾウやサイもそうだ」と問われるかもしれない。
しかし彼らには、だれでも思いつく理由がある。
イルカなどは毛をなくすことで水の抵抗が減り、水中ですばやく動いたり、楽に長距離を泳げるようになる。
ゾウなどは暑い地域にすんでいて、しかも体格が大きいので、放熱できる体表面積が相対的に小さい。
もし毛に覆われていたら体温が上がりすぎて生存すら危うくなる。ではヒトはどうか?
水の中に暮しているわけでもないし、そんなに体格も大きくない。
実はやはり体温の上がりすぎを防ぐための進化のようだ。
ヒトの場合、保温効果のある毛皮をなくしただけでなく、熱の発散に非常に効果的な水分の多い汗をかく。


では、なぜ過熱を防ぐことがそれほど大事だ他のだろう?
それは、ヒトの祖先でのライフスタイルの変化がある。
森から草原に出た私たちの祖先は、食べ物を求めて長距離を歩いたり走ったりするようになった。
活発に動き回っても体温が上がりすぎないための仕組みが必要だったのだ。この仕組みは脳の大型化にも一役かった。
脳は熱に弱い器官なのだ。



日経サイエンス」2010年5月号