おとりで感染拡大を防ぐ

遺伝子を組みかえたニワトリで鳥インフルエンザの感染拡大がおさえられた。
Science2011年1月14日号


ニワトリを高確率で死亡させる鳥インフルエンザウィルス(HPAI)が、世界の養鶏産業をおびやかしている。
現在のワクチンではウィルスを撲滅できない。そのため1羽でも感染がみつかると、養鶏場全体のニワトリを殺処分し、感染拡大を防ぐしかなかった。


イギリスケンブリッジ大学のライアル博士らは、体内でのHPAIの増殖を抑制するような遺伝子組みかえニワトリを生み出した。
このニワトリは、HPAIを増殖させる分子を引きつけてそのはたらきを阻止する“おとり”分子を体内でつくることができる。


このニワトリにHPAIを感染させたところ、自身は感染症で死んでしまったものの、他の健康なニワトリへの感染を抑える効果がみられた。
一緒の部屋に入れた健康なニワトリの死亡数が、通常のニワトリでは10羽中7羽上がったのに対し、2羽にとどまったのだ。
博士らは、多様な型のHPAIに効果を発揮することを、今回のニワトリの利点としてあげている。
「NEWTON」2011年5月号

栄養不足でうつ傾向に?

必須栄養素の脂肪酸が不足したマウスで、うつ病のような状態がみられた。
nature neuroscience2011年3月号


安くて高カロリーな食物は、必須栄養素を欠くことが多い。
そのような食事を続ける必須栄養素が不足すると、脳の発達や行動が悪影響を受けるという指摘がある。
たとえば魚などに含まれる「n-3型多価不飽和脂肪酸(n-3PUFAs)」の不足は、精神神経症を起こしやすいことが知られている。


今回フランス国立医学研究機構やスペインのバスク大学などからなる研究チームは、生まれたときからn-3PUFAs不足のえさで育てたマウスの脳をくわしく調べた。
その結果、脳の前頭葉で、神経どうしのつながりであるシナプスに異常をみつけた。
研究によると、シナプスでの「長期抑制」が正常におおきくなっていた。
このマウスは、人の感情表現にあたる行動や反応が少なく、うつ病のような状態だったという。
この結果から、ヒトでみられるn-3PUFAs不足による行動変化の原因の一つが分かった、と博士らは考えている。
「NEWTON」2011年5月号

細菌の免疫システム

微生物がウィルス感染などから身を守る詳しいしくみが明らかにされた。
nature2010年11月4日号


細菌や古細菌といった微生物も、ウィルス感染などで細胞内に遺伝子の侵入を受ける。
これらの微生物は、細胞内の特殊な遺伝子配列「CRISPR」を介し、外来遺伝子を切断して身を守る能力がある。
最近、ある古細菌では、CRISPRの中に外来遺伝子を取りこみ免疫を獲得することがわかった。
しかし、その詳細は不明だった。


カナダ、ラヴァル大学のガルノー博士らは、乳酸菌の一種の細胞内にDNAを侵入させ培養した。
すると、CRISPR中に外来DNAを取りこみ、新たに侵入した同じDNAを切断し無効にする菌があらわれた。
外来DNAがウィルス由来でも、細菌間などで伝達されるDNA「プラスミド」由来でも、このような免疫獲得がおこなわれていた。
外来DNAは特定の部位で切断されることもわかった。
今回の成果を応用すれば、バイオ産業に役立つような、DNAの侵入に強い微生物の作成が可能になるとみられている。
「NEWTON」2011年3月号

大腸菌でガソリンをつくる

ガソリンなどの化石燃料を合成するための遺伝子をラン藻から発見した。
Science2010年7月30日号


炭素原子などがつながった有機分子「アルカン」は、ガソリンや軽油などの化石燃料の主成分である。
アルカンは多様な微生物の体内で合成されているが、どのように合成されるかはなぞだった。


アメリカLS9社シルマー博士らは、アルカンがつくることが知られている「ラン藻」に着目した。
11種類のラン藻の仲間を調べたところ、炭素が15〜17個のアルカンを合成するものが10種、アルカンをまったく合成しないものが1種いることがわかった。
博士らはこれらの遺伝子配列を比較し、ラン藻のアルカン合成に関係する二つの遺伝子を割りだした。
一つ目はアルカンの元になる「脂肪族アルデヒド」を作る酵素で、
二つ目は脂肪族アルデヒドからアルカンなどをつくりだす酵素だった。
この二つの遺伝子を大腸菌に組み込むと、炭素13〜17個からなるアルカンなどができた。


この研究が進めば、大腸菌でガソリンなどを安くつくることも可能だろう、と博士らは考えている。
「NEWTON」2010年12月号から

トビウオから飛行機

水平飛行するトビウオは、鳥に匹敵する滑空能力をもつことが明らかになった。
The journal of Experimental Biology2010年9月号


トビウオは胸びれと腹びれを翼のように使い、時間で30秒以上、距離で400メートル以上、空中を飛ぶことができる。
しかし、トビウオが空気の力をどのように受けて飛行しているのか、くわしくは調べられていなかった。


韓国、ソウル大学のチェ教授らは、はく製にしたトビウオを「風洞」とよばれる空気の流れをつくる装置に入れて、トビウオの飛行姿勢と空気の力の関係をくわしく調べた。


その結果、トビウオは鳥に匹敵する滑空能力をもち、実際のトビウオがしているように、水面に平行な姿勢のときに最も遠くまで飛べることがわかった。


また、水面からの高さが飛行距離にどう影響するかを調べたところ、トビウオが水面に近ずくにつれ空気抵抗が小さくなり、さらに距離がのびることがわかった。
トビウオの飛行法を利用すれば、水面近くを飛ぶ燃費の良い飛行機が作れるのではないかと、博士らは考えている。


「NEWTON」2010年12月号から

万能ワクチンが完成?

全ての種類のインフルエンザウィルスに効くワクチンの実現に近づいた。
Science2010年8月27日号


インフルエンザウィルスの表面にある「ヘマグルチニン(HA)」というタンパク質に、「抗体」が結合すると、ウィルスの感染力が失われる。
HAを含むウィルスの一部を「ワクチン」として接種すると、ウィルスに感染する前に、HAに対する抗体を体内で作っておくことができる。
ただしHAは何種類もあり、毎年流行する種類がちがうため、どの種類にも対応できるワクチンが求められていた。


アメリ国立衛生研究所のウェイ博士らは、HAをつくる遺伝子を含む環状DNA(デオキシリボ核酸)をワクチンとしてマウスに接種した。
そこへさらに、通常の季節性インフルエンザワクチンなどを接種した。
こうして2種類のワクチンを組み合わせた結果、さまざまな種類のHAに対して効果をもつ抗体が体内でつくられた。


博士らは、この方法によりすべてのインフルエンザウィルスに効果のあるワクチンが実現できるかもしれない、とのべている。


「NEWTON」2010年12月号から

涙は女だけの武器じゃない…でも、マウスの話

マウスのオスは「涙」でメスを落とす--。
2010年7月2日 提供:読売新聞


 東原和成・東京大教授(応用生命化学)らは、オスのマウスの涙腺から分泌される物質が、メスの脳を刺激して交尾を促進することを明らかにした。哺乳(ほにゅう)類の性フェロモンの機構が明らかになったのは初めて。英科学誌ネイチャーに発表した。


 研究チームは、成熟したオスだけが分泌する「ESP1」という小さなたんぱく質の機能を解析。メスは通常、オスが交尾を仕掛けても10回に1回ほどしか受け入れないが、ESP1を与えると2回に1回ほどに増えた。



 メスは鼻の下部の「鋤鼻(じょび)器官」にあるセンサーでESP1を認識し、発情を調整する視床下部に情報を送っていた。センサーを働かなくすると交尾の促進は見られなくなった。



 効果てきめんのESP1だが、霊長類や人間にはこの遺伝子がなく、男が泣いても効果は期待できない。