毎年使えるワクチン

流行するインフルエンザウィルスの種類によらず、感染を防げるかも
Science2011年8月12日号


インフルエンザウィルスは、ウィルス表面にあるタンパク質分子「HA」を使って感染する。
現状のワクチンでは、HAの一部を予防接種する。HAに結合して免疫反応のきっかけとなる抗体を体内でつくらせて、ウィルスを攻撃し感染を防ぐのだ。
HAの種類はウィルスごとにことなるため、流行するであろうウィルスに合わせたワクチンが必要である。


スイス生命科学研究所などの研究グループは、年によって流行のわかるA型インフルエンザウィルスに知られる全16種類のHAに結合する抗体を見つけた。
研究グループは、抗体をつくるヒトの細胞を1細胞ずつ培養し、さまざまな抗体を得た。得た抗体をそれぞれマウスなどに投与したところ、そのうちの一つが、複数のウィルスの感染を防いだという。


ヒトでも今回の抗体を投与するなどすれば、どの種類のA型インフルエンザウィルスが流行しても感染を防げるかもしれない、と研究グループは考えている。
「NEWTON」2011年12月号

病原菌の襲来を予知

植物は、病原菌に感染しやすい時間帯にあわせた免疫を準備しているようだ。
nature2011年2月3日号


植物には、幅広い病原体に対する免疫がある。この免疫の詳しい分子レベルの仕組みは、ほとんど分かっていない。


アメリデューク大学のワン博士らは、免疫反応の指令を出す遺伝子が突然変異したシロイスナズナを、正常なものとともに、ある病原菌に感染させた。
そして、感染時にはたらくさまざまな遺伝子の変化を時間ごとにくらべた結果、防御のための細胞死と病原菌への抵抗性に関わる遺伝子群を発見した。
それらの遺伝子のはたらきは、約24時間のリズムをきざむ分子により周期的に調節されていることがわかった。


遺伝子のはたらきが高まる時間帯は、病原菌が胞子をまき散らす夜明けに一致しており、植物は感染にそなえていると考えられるという。
免疫にともなう細胞死などの反応は、植物にとって負担にもなる。限られた時間だけ免疫をはたらかせる今回の仕組みがそのような負担を軽くしているようだ、と博士らは仮説を立てている。
「NEWTON」2011年6月号

予期せぬ素粒子

従来の物理学をかえてしまう可能性のある素粒子があらわれたかもしれない。
Familab Today2011年4月7日


物質の材料である素粒子の性質は、多くの実験によって検証を受けた「標準理論」で説明される。
この理論では、物質のもつ質量にかかわる「ヒッグス粒子」が登場する。しかし、実はこのヒッグス粒子は未発見だ。
ヒッグス粒子は、陽子などの粒子どうしを超高速で衝突させると生じる可能性がある。
そのため、世界各地で粒子の衝突実験が進行中だ。


フィンランドヘルシンキ大学のアールトネン博士らは、アメリフェルミ国立加速器研究所加速器「テバロン」による陽子と反陽子(負の電荷をもち、陽子と同じ質量の粒子)の衝突実験で得られた膨大なデータを解析した。
その結果、未知の予期せぬ素粒子の存在が示された。この素粒子ヒッグス粒子ではなく、標準理論で説明できないものだという。
つまり、新しい物理学の誕生につながるかもしれないのだ。ただしこの結果の真偽を確かめるため、更なるデータの蓄積が必要だ、と博士らは述べている。
「NEWTON」2011年6月号

夜ふかしで太る理由

不規則な生活を送ることで、脂肪を燃やす遺伝子のはたらきが落ちるようだ。
Science2011年3月11日号


人間はふだん、役24時間周期の正確な体内時計をきざんでいる。
だが、夜ふかしなど不規則な生活をつづけると体内時計は乱れてしまう。
これまで、不規則な生活を送る人は糖尿病や脂肪肝といったメタボリック症候群にかかりやすいことが知られている。
しかし、そのメカニズムは不明だった。


アメリペンシルバニア大学のフェン博士らは、遺伝子のはたらきを調節する酵素である「HDAC3」に注目した。
研究の結果、HDA3は体内時計にしたがって、脂肪燃焼を制御していることがわかった。
さらに博士らは、肝臓のHDA3がはたらかないマウスをつくり、その生活を観察した。
すると、このマウスは体内時計が乱れることにより、脂肪燃焼のはたらきが落ち、脂肪肝になりやすい性質を示したという。
夜ふかしなどにより体内時計の乱れた人が、なぜメタボリック症候群になりやすいのか、を今回の発見により説明できるのではないか、と博士らは述べている。
「NEWTON」2011年7月号

菌でマラリア退治

遺伝子を組みかえた菌類使い、蚊の体内にいるマラリア病原虫を駆除できた。
Science2011年2月25日号


マラリアは、蚊の体内にいる病原虫よる感染症である。
この病原虫をもつ蚊に刺されると感染するリスクがあり、世界中の半分近くの人をおびやかしているといわれる。
予防策として、マラリア病原虫や蚊に対して殺虫剤が使われている。
しかし近年、広く使われている殺虫剤の成分に耐性をもつ蚊があらわれた。
そのため、かわりの方法が必要となってきている。


アメリメリーランド大学のファン博士らは、昆虫に感染する「メタリジウム菌」使ったマラリア病原虫の駆除方法を開発した。
マラリア病原虫は蚊の唾液腺へと移動する。そこで博士らは菌の遺伝子を組みかえ、蚊の唾液腺に病原虫がくっつかないようにする分子と、病原虫にきく毒素を同時に作ることができるようにした。
この菌を蚊に感染させたところ、唾液腺でみつかるマラリア病原虫の数が98%減ったという。
今回開発された菌類は、マラリアへのよい対抗策になるかもしれない、と博士らは考えている。
「NEWTON」2011年6月号

遺伝子を失い進化?

ヒトが進化する過程で遺伝子を失うことの重要性が明らかになった
nature2011年3月10日号


ヒトは霊長類の中でも独自の特徴をもつ。退化した体毛や大きな脳容積、すぐれた言語能力などである。
これらを得るに至った進化過程は、DNAのうち、タンパク質の情報を含む領域(遺伝子)を多様な動物種と比較して研究されてきた。


アメリスタンフォード大学のマクリーン博士らは、従来とは逆に、DNAの98%を占める。
タンパク質の情報を含まない領域に着目した。この領域をほかの霊長類と比較した結果、
ヒトのみが、完全に失った遺伝子を510ヶ所発見した。
これらの遺伝子をマウスで実験的にはたらかせたところ、二つの遺伝子の機能がわかった。
一つは、ほおの感覚ヒゲと雄の生殖器のトゲをつくり、もう一つは脳容積の増加をおさえるという。
ヒトの外見や能力は、新たな遺伝子を得たからではなく、遺伝子を失ったために生まれた可能性もある。
それはひきつづき遺伝子の機能を解析することでわかるだろうと、博士らはのべている。


「NEWTON」2011年7月号

窒素で性能アップ

既存の太陽電池に窒素を加えるだけで、高効率な太陽電池ができた。
Phisical Review Letters2011年1月14日号


太陽電池は太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する。
近年、素材をかえた複数の太陽電池を組み合わせることで40%をこえる高いエネルギー変換効率が実現されている。
一つの太陽電池は、紫外線や可視光などさまざまな波長の光を含む太陽光のうち、一部の波長のみ利用する。
そのため、多種を重ねれば吸収する光の波長の領域が広がり、高効率が達成されるのだ。
だが、このような太陽電池の製造は複雑で高価であった。


アメリカローレンスバークレー国立研究所のロペス博士らは、ガリウムヒ素でできた従来の安価な太陽電池に窒素を注入するだけで、吸収する光の波長が3倍も広がることを見いだした。
これは、窒素原子が電子配置を大きくかえ、電気エネルギーとして取りだせる電子の数を増やすからだという。
今回の成果をさらに発展させ、高効率な太陽電池の実用化をめざしたい、と博士らはのべている。
「NEWTON」2011年5月号